2025年、日本の初任給は「20万円台前半」から「24万円前後」へと、緩やかに水準が上がっています。 産労総合研究所の調査によると、大学卒の平均初任給は23万9,280円となり、長年の相場だった「20万円前後」から一段階上がってきました。同時に、給与の決め方そのものにも変化の兆しがあります。この記事では、最新データをもとに日本の初任給事情をわかりやすく整理してみます。
72%の企業が初任給を引き上げた2025年
本日(2026年5月24日)時点の情報をもとにまとめています。
産労総合研究所が発表した「2025年度 決定初任給調査」によると、初任給を「引き上げた」と回答した企業の割合は72.0%にのぼり、調査開始以来2番目に高い水準となりました。
企業規模ごとの平均初任給は次のとおりです。
・大企業(従業員1,000人以上):25万9,285円(前年比6.52%増) ・中堅企業(300〜999人):23万9,624円(前年比4.63%増) ・小規模企業(299人以下):23万1,657円(前年比4.63%増)
引き上げの理由として最も多かったのは「人材を確保するため(71.1%)」で、「在籍者のベースアップがあったため(48.3%)」を大きく上回りました。企業が採用・定着を強く意識している様子がうかがえます。
一方で、大企業と中小企業の間には約2万8,000円の差があります。企業規模による賃金格差は、就職活動における判断材料としても無視できない要素になってきているといえます。
世界の初任給と比べてみると
国内では「初任給が上がってきた」という実感が出てきていますが、世界のデータと並べると、まだ差があるのも事実です。
2024年のデータによれば、シリコンバレーで働くソフトウェアエンジニアの新卒年収は、総報酬ベースで約1,400万〜1,800万円とされています。物価や税制の違いを踏まえても、日本との開きは大きいといえます。
他の国・地域を見ると、シンガポールではIT専攻の初任給の中央値が約S$5,500(日本円で64万円前後)、韓国では購買力平価(PPP)基準で日本の大企業を約41%上回るという調査結果があります。ドイツのIT系初任給は約5.1万ユーロ(日本円で850万〜900万円相当)と報告されています。
これらはあくまで目安であり、物価・税制・社会保障の違いがあるため単純に比較することには限界があります。ただ、複数の指標が「日本の賃金水準は国際的に見て低い位置にある」ことを示しているのは確かです。優秀な人材が海外に活躍の場を求める動きが出てきている背景には、こうした賃金差もあると考えられます。
なぜ30年間、賃金は上がらなかったのか
日本の賃金が長期にわたって停滞した背景のひとつとして、1990年代のバブル崩壊後に広まった「人件費抑制」の考え方があります。当時の経営環境のなかで、新卒採用がコストを抑えた大量確保の手段として位置づけられるようになったと考えられています。
エコノミストの永濱利廣氏らが指摘するように、生産性が上がらなければ賃金も上がりにくく、その悪循環が続いた結果が「失われた30年」と呼ばれる停滞につながったとも言われています。企業が長年にわたって人件費を抑え続けた結果、今になって深刻な人材不足という課題と向き合うことになったという見方もあります。
余談ですが、日本は対外純資産の規模では長年世界トップクラスを維持してきた国です(2024年に34年ぶりに2位となりましたが、依然として世界有数の水準です)。それだけの経済的な蓄積がありながら、なぜ賃金の国際的な競争力が落ちてしまったのか、という点は多くの人が感じる疑問ではないでしょうか。
給与の「仕組み」そのものも変わりつつある
2025年に注目されるのは、金額の引き上げだけではありません。給与の決め方そのものにも変化の兆しがあります。
NTTが一部職種で2026年入社向けに30万円以上の初任給を設定したり、三菱UFJ銀行やソニーが能力次第でより高い年収を目指せるコースを設けたりと、「職務内容や専門性で報酬を決める」ジョブ型の考え方が広がってきています。これは従来の「年齢とともに給与が上がる」モデルとは異なるアプローチです。
ジョブ型では自分のスキルや成果が収入に反映されやすい一方で、スキルの市場価値が問われやすいという面もあります。「何歳か」だけでなく「何ができるか」が問われる場面が増えていくなかで、キャリアへの向き合い方も少しずつ変わっていくかもしれません。
新入社員の夏季賞与にも変化が
今回の調査では、新入社員向けの夏季賞与にも変化が見られました。
何らかの夏季賞与を支給する企業の割合は81.8%で、前年の77.5%から上昇しています。平均支給額は大学卒で約10万円、高校卒で約8万円です。
入社後まもない時期に支給されるこのボーナスは、金額としては多くないものの、支給する企業が増えている背景には、入社直後の離職を防ぎたいという意図があると考えられます。早期離職は企業にとっても大きなコストになるため、賃金以外のタイミングでも「定着してもらうための工夫」が広がっているともいえます。
まとめ
2025年の初任給引き上げは、日本の雇用環境が少しずつ変わってきていることの表れともいえます。ただ、世界との差はまだ残っており、この流れが今後も続くかどうかは注視が必要です。
ジョブ型への移行が進むなかで、自分のスキルや強みを意識的に育てていくことの大切さは、これからより高まっていくかもしれません。賃上げの動きを「自分ごと」として捉えながら、キャリアを考えるきっかけにしていただければと思います。
参考資料
- 産労総合研究所「2025年度 決定初任給調査」https://www.e-sanro.net/
- Levels.fyi「Entry Level Software Engineer Salaries – San Francisco」https://www.levels.fyi/
- NUS「Graduate Employment Survey 2024」https://www.nus.edu.sg/
- 第一生命経済研究所・永濱利廣「日本の賃金と生産性に関するレポート」https://www.dlri.co.jp/
- 財務省「本邦対外資産負債残高」https://www.mof.go.jp/
- NTT公式採用サイト「2026年度新卒採用情報」https://recruit.ntt.co.jp/


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